「東大阪にある異分野・異業種の企業同士が繋がり合い、互いに持っている技術やアイデア・ノウハウなどを持ち寄れば、新たな可能性が広がるのでは」。そんな思いから、東大阪のモノづくりの楽しさ、素晴らしさを発信する「東大阪ブランド推進機構」が会員を中心とした共創プロジェクトを立ち上げ、結成された「チーム東大阪オープンイノベーション」。2018年の発足以来、西日本最大級の建築材料・住宅設備の総合見本市「KENTEN」をはじめ、さまざまなプロジェクトに参加している。
そんなチームが2023年の夏に製作したのが、東大阪で開催されたラグビー大会のトロフィー。東大阪市から相談を受けた、きづきデザインラボ代表の竹綱 章浩(たけつな あきひろ)さんを中心に7社が結集し、各社の技術を注ぎ込んだ。
「相談を受けた電話口ですぐにラフ案が浮かびました(笑)。台座、支柱、プレートで分けた3つのパーツを、それぞれ得意な会社さんにお願いすれば完成するなと。納品まで1カ月しかなかったので、私が各社をまわり、図面を渡してすぐに取りかかってもらいました」と竹綱さん。
キラキラと輝くラグビー型のアクリルプレートを担当したのは、サントー試作モデル株式会社 代表取締役の山東 基実(さんとう もとざね)さんと取締役の枝未(えみ) さん。
「トロフィーらしい輝きがほしかったので、アクリルを採用したのですが、ツヤを出す磨きの工程で時間がかかってしまうことが判明しました。従来の加工では間に合わないので、ガスを使って新しい加工を試してみることに。結果は時短にもなったし、ツヤもしっかりと出せて納得の仕上がりになりました。この方法は今後の業務にも取り入れようと思いましたね」と基実さん。
アクリル部分に手で触れると指紋が目立つので、納品時に手袋を同封したら、一緒に各社の作業にまわったそう。「まさにラグビーのようなパス回しで進んだ作業でした。いろんな会社さんと製作の裏話ができたのも面白かったですね」と振り返る枝未さん。
アクリルプレートとアルミ支柱をつなぐパーツを製作したのは、株式会社松下工作所の広報を務める迫田 翔一(さこだ しょういち)さん。 「優勝、準優勝、3位にMVP。4種のトロフィーは高さもアクリルのラグビーボウルのサイズも変わるため、角度もそれぞれ調整が必要でした。傷がつかないよう慎重に、いかに目立たないようにするか。普段はもっと大きなモノを扱っているので、いつもと違う作業に緊張感がありましたね」と迫田さん。さらに、台座に書かれたプレートの印字加工を施す作業も行った。
台座を担当したのは、株式会社西尾木材工業所の執行役員 管理部 統括部長の古川 雅一(ふるかわ まさかず)さんと、取締役専務の若見 典之(わかみ のりゆき)さん。「ありきたりな木材では面白くないなと思い、家具担当と相談して宮殿や寺院に用いられるチーク材を選びました。台座の面取りも銀杏面加工でトロフィーにふさわしくなるよう、華やかな仕上がりを意識しています」。
また、台座を裏返すと見えてしまうボルトに隠し板を施すといった、細かな部分にもこだわった。「トロフィーを手に取った選手が、がっかりしないよう目に見えないところもこだわりました」と古川さん。
実はこの台座、設計からわずか2日間で完成したというから驚きだ!
「技術もさることながら、フットワークの軽さも我々の武器。トロフィーにふさわしい台座が完成しましたね」と若見さんは笑顔で話してくれた。
最後の仕上げとして、アルミの支柱の製作と、各社が製作したパーツをつなぎ合わせる作業を行ったのは、株式会社タイコー軽金属の設計と開発を担当する坪井 俊幸(つぼい としゆき)さん。
「依頼を受けた時は気軽に考えていたけど、皆さんが作ったパーツを集めての接合作業は、失敗したらもう一度作ってもらうことになるので責任重大だなと(笑)。集まったパーツはそれぞれ材質が異なるので、接着剤の配合を細かく変えるなど工夫を凝らしているんですよ。アルミの支柱は、トロフィーごとに高さやカタチを変えたり、アレンジを加えています」と、細かな部分にまで坪井さんの思いが込められていた。
このほかにも、トロフィーを保管する化粧箱を担当したマツダ紙工業株式会社や、支柱のエクステリアとして、教会のドアに用いられる硝子材を提案した田中アートグラス株式会社が協力し、東大阪の技術が集約されたトロフィーが完成した。
トロフィーの製作依頼が竹綱さんに届いたのは、総合見本市「KENTEN」への出展作業中の2023年5月のことだった。「展示会の準備に追われ、実際の作業期間は1カ月もなかったけど、無事に完成させることができた。これは、デザインする竹綱さんがそれぞれの企業をよく理解しているからできたこと」と笑顔で話すのは、株式会社松下工作所 代表取締役の松下 寛史(まつした ひろし)さん。
実はこのトロフィーには、モノづくりの際に余った端材が使われている。
「支柱の硝子は田中アートグラスさんの端材を採用しました。アイデア次第でいいモノができるし、感動してもらえる。これこそモノづくりの本位だと思います。今回はこのメンバーでの参加になりましたが、できれば全企業が参加できるモノづくりにも挑戦してみたい。各社の技術が集まれば、予想もしなかった新たなアイデアが生まれるでしょう。東大阪にはたくさんの町工場があり、その数だけ可能性が秘められている。これこそ東大阪が誇る、モノづくりの強さなんです」と、竹綱さんは熱く語ってくれた。
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